地域社会の重要性
人が彼をウォーターマンとして尊敬する理由は、世界的に有名なボディサーフィンの技術やライフガード技術だけではない。彼は初めて会う人間とも気軽に会話し、そこからも様々な影響を受けるという。人と人のつながりを誰よりも大事にし、自分を決して大げさに表現しない。ライフガードとしての厳しい意見を持ちながらも、誰にでも敬意を持って接する謙虚な姿勢。彼は自分の仕事に誇りを持ち、そして誰よりも海を愛している。
「タワーの後ろのサンセット小学校で見かけた子どもたちが、いつしかパイプに入るほど成長したサーファーになっているのを見届けたとき、僕は心の底から応援したね」「近所の家族とかわす毎朝の挨拶、冬になると現れる世界トップサーファーなど、様々なタイプの人間に会い、それらから感じたコミュニティーの素晴らしさ全てがあるからこそ、このタワーにいる価値があるんだ。最近、日本人のサーファーやライフガードをよく見かけるようになったよ。皆実力も経験も確実に上がってきている。でも海にいるのを楽しむことを忘れないでほしい」
時としてメディアやサーファーは海の方面だけを見るが、実際はその反対側に大切なコミュニティーが存在する。有名になろうとする欲望が、本来の海を楽しむ姿を屈折させてしまう。自然とのハーモニーとは、ライフガードという仕事を愛し、海という場で地域社会と交流するマークだからこそ得ることができるものなのだ。
海の中でしなやかに踊る彼の言葉の節々には人として生きることに必要なキーワードがたくさんあった。
ボディサーフィンが秘める魅力
パイプラインでのボディサーフィンを終え、砂浜に上がってくるマークの姿を見て、あらためてボディサーファーとして恵まれたその体格に感心した。手足が細長く190cmの長身がしなるようにして水中を進む。水中で見ると、まるで目の前でイルカのようにしなやかで力強かった。オアフ島の東側ニューバレーで育ったマークはリーシュコードがなかった幼少時代、流れてしまったボードを取りに行くのにボディサーフィンができるため、いつも人よりたくさんいい波に乗ることができた。「身体一つで波に乗る技術はサーファーの必要条件だ」とマークは断言する。
47歳になった現在、新人ライフガードのトレーニングとライフセービングの啓蒙活動をしながらも、18年見守ったエフカイのライフガードタワーに週に一度は現れる。「美しい海岸線を一日中見ながら、海・空・地球と一体になれるライフガードという仕事を選んだよ。海はそれだけ人を惹きつけてしまう恋人なんだ。時として簡単に人命を奪ってしまうほどの、エネルギーにあふれたパイプラインのチューブの中を、針の穴に糸を通すように進む芸術的瞬間、僕は完全に自然と一体化するんだ」と語るマーク。
しかも海底の地形から潮の流れ、時には塩の味までも見極める能力を持つ彼は、毎冬、パイプラインの大波の中で溺れかけるサーファーを幾度となく泳いで助け出し、20年間の月日を薄みがかったオレンジ色のライフガードタワーで過ごした。
ジェリー・ロペスの時代からケリー・スレーター、マイク・スチュワートまで世界のサーフシーンを目の前て見きたマーク。エフカイのタワーにいた20年間、どれだけの人の命が守られ、そしてどれだけのサーファーたちが彼の雄姿を目にしてきただろうか。「人命救助に必要な基本的能力は“大波の中で泳ぐこと”そして“自分をコントロールすること”だよ」と最後に言ってくれた。